俳句カレンダー鑑賞  平成29年7月

俳句カレンダー鑑賞 7月
瀧壺に瀧活けてある眺めかな 中原道夫

 第3句集 『アルデンテ』に所収。人口に膾炙する〈飛込の途中たましひ遅れけり〉は見えないものを見えているように表現しているが、掲句は滝を眺めて、滝「壺」に、滝が活花のごとく活けてあると見立てた。
 『アルデンテ』は『銀化』の一つ前の句集であるが、「沖」時代に親しい方々と箕面の滝を観に行って詠まれた句と聞く。
 かの後藤夜半の有名な〈瀧の上に水現れて落ちにけり〉が詠まれたとされている場所である。夜半の句は、まさしく客観写生であり、視線の動きは滝の上から下へと繰り返されるが、活けてあるものへの視線の動きは、下から上に向かう方が自然であろう。
 フィルムを逆回しして、水が滝の上に戻っていくようにも思える。夜半の名句に対するアンチテーゼでも、オマージュでもなく、中原道夫の世界が立ち上がる。 (大嶋 康弘)
瀧壺に瀧活けてある眺めかな

中原道夫

 社団法人俳人協会 俳句文学館555号より