俳句カレンダー鑑賞 平成29年6月
- 俳句カレンダー鑑賞 6月
-
森の中で椎の花は見えない。青白く湿った匂いからそれが咲いていると知る。そして森を出て振り返ったとき、樹冠の上に雲のように白く咲く花を改めて目にするのだ。
「杜」の字は神社の森を表すので、「一礼」はその奥に鎮座する神への挨拶。椎は古代から鎮守の森として守られた自然林を成す樹種の一つだ。
作者によれば、この句は明治神宮での印象に基づくという。明治神宮は実は自然林ではなく、それに近づけて育成された人工林である。確かにこの句の「抜け来る」に古代的信仰は感じない。
古代人は神に深々と祈った後、森から畏まりつつまかり出ただろう。つまりここに詠まれたのは現代の都市生活の習慣である。ただしその「一礼」も今後いつまで残るだろうか。これは失われゆく習慣の記録かもしれない。(杉浦 功一)抜け来る杜に一礼椎の花
星野恒彦
社団法人俳人協会 俳句文学館554号より